
【取材】kanzaki chiharu
AERA(2015年9月14日号)特集「移住しやすい街110」で三重県内で唯一、最高ランク三つ星を獲得した伊賀市。果たして本当に移住しやすい街なのか!? 実際に取材して確かめてみました。
―――伊賀市はこんなところ。
三重県の北西部に位置し、周囲360度を山に囲まれた自然豊かな盆地です。京都、奈良や伊勢を結ぶ3つの街道を有し、古くから都に隣接する地域として、また江戸時代には藤堂家の城下町、伊勢神宮参拝者の宿場町として栄えてきた歴史があり、現在も風情ある町家や宿場町の風景が見られます。

上野市駅前にそびえ立つのは、俳聖、松尾芭蕉の像。『おくのほそ道』など各地を巡った芭蕉ですが、実は、伊賀市生まれなんです。駅から徒歩10分くらいのところに生家もあります。ちなみに地元の人は親しみを込めて「芭蕉さん」と、さん付けで呼び、決して呼び捨てにはしません。
すぐ近くには、銀河鉄道999の「鉄郎&メーテル像」も。伊賀忍者にちなんだ「忍者列車」のイラストをあの松本零士さんが手掛けたご縁から作られました。

想像以上の目力で初めて見ると圧倒されます。

【伊賀市基本DATA】
面積:558.23平方キロメートル
人口:94,771人
名古屋、大阪、京都まで車で約80分。
※資料提供:伊賀市企画振興部地域づくり推進課(2015年11月のデータ)
豊かな自然に恵まれながら、周辺都市へのアクセスが良いのも特徴のひとつ。

「君の名は。」で話題になった組紐(くみひも)や、伊賀焼などの伝統工芸品も有名です。
―――陶芸家・田中元将さんの紹介。
移住者の生の声を聞くべく、大阪から伊賀市島ヶ原へ移住している、陶芸家・田中元将さん(36)を訪ねました。

実は、田中さんとは以前にお会いしたことがあるのです。
田中さんが単身、島ヶ原に移住してきたのは2015年夏。
築100年以上の古民家をDIYして工房兼住居にしようとしている若き陶芸家がいると聞いて、すぐさま取材しました。

移住するだけでも大変なのに、古民家を自らの手で改築するなんて、やはりアーティストはひと味違うなぁ…。
田中:歴史ある古民家なのに、内装が近代的にリフォームされていたので、本来の古民家ならではの良さを出したいと思ったんです。壁や天井を剝がしたら、立派な梁(はり)や年月を経たもともとの壁が出てきて…「いいな」と思って。まずはリビングを完成させて、人が集えるような空間にしたいですね。
―でも、ちょっと盛大に剥がし過ぎなんじゃ…。これ、冬までにどうにかなるんですか?
田中:思ったより大掛かりになって…大変です。
田中:冬までには完成させますよ…春には薪窯(まきがま)も完成してますよ…。
と、つぶやきながら一点を見つめたばこをくゆらせていた姿を、昨日のことのように思い出します。
【あれから1年ぶりの訪問】
田中さんの住まいはセミオープンなままでした。むしろ壁の無いところが増えたような…。
田中:今年の冬はまだ暖かくていいですね。去年の冬は寒さのあまり大阪の実家に避難しましたよ(笑)。
そりゃそうなるでしょうよ!! と、いろいろツッコみたくなりましたが、グッとこらえて取材です。
【田中さんの略歴は…】
1980年、大阪に生まれる。
2003年、大阪芸術大学芸術学部(陶芸コース)卒業。
自動車整備工場で働きながら、大阪を拠点に作陶活動。
2009年に陶芸家として独立。
2013年には第64回岸和田市市長市議会議長賞受賞。
そして2015年、伊賀市島ヶ原へ拠点を移す。
幼い頃からモノづくりが好きで、道具ではなく、自らの手で土を作品に変えていく陶芸に魅力を感じ、作陶活動を始めたという田中さん。
当初は電気窯での作品を主にしていましたが、知り合いの作家の窯焚きを手伝ったことがきっかけで「薪窯」に魅了されたそうです。
――― 「いつか自分の薪窯が持ちたい」これが移住の理由。
関西を中心に物件を探し、作家仲間の紹介でこの島ヶ原の古民家に出合いました。
母屋、納屋、蔵、そして空き地と延べ300坪はあろう広い敷地。
薪窯を設置できる充分なスペース。
家賃の安さ。
作家仲間や知り合いがいる。
大阪からのアクセスの良さ。
伊賀焼の産地であること。
決めた理由はいろいろありますが、
「一番は雰囲気? インスピレーションですね」と、アーティストらしいお答え。
―住む前の伊賀のイメージってどうでした?
田中:伊賀焼の産地。大阪で窯焚きの手伝いをしていたところで伊賀の土を使っていて、伊賀焼を知り、興味を持ちました。3年くらい前に伊賀の作家さんのところに窯焚きの手伝いにも来たことがあって、「いいところだな」とは思っていました。大阪から近いし。

―ちなみに、芭蕉さんの生誕の地というのは?
田中:全く知りませんでした。駅前の銅像を見て、「なんで?」って友人に聞いて知りました。
―1年半住んでみた感想は?
田中:静かですね。鳥や虫の声が聞こえて、四季の移り変わりがよく分かって、自然と共に生きてるって感じですね。めっちゃ仕事に集中できます。
―1日のスケジュールってどんな感じなんですか?
田中:基本、ここにいます。食事以外は陶芸か大工仕事。まだ電気が全部通ってないので、明るいうちに大工仕事をなるべくします。太陽ってほんとありがたいですよ。お腹が空いたら食事をつくって、また仕事して。土づくりしたり、ろくろを挽いたり。
―ひとりで、さみしくないですか?
田中:さみしいです(即答)。
冬は特に。寒いからですかね? さみしいです。ひたすら耐えます。陶芸ばかりしてるんで、趣味を持ちたいですね。最近、ボルダリングに興味があるんです。絶対向いてると思うんですけど、次の日、筋肉痛になるから陶芸にはあかんのですけど。
―今の楽しみは?
田中:スーパーへの買い出し。週1で最寄りのスーパーへ1週間分の買い物に行きます。食料や生活必需品を買うだけなんですが、これが楽しみです。
―伊賀の魅力ってなんでしょう?
田中:やっぱり自然の豊かさですね。星がめっちゃキレイ。季節の移り変わりや四季折々の変化がよく分かる。動物や鳥の声も聞こえるし。あ、ここの納屋の2階からの夕暮れの景色が最高。車で走っていて田園風景の広がる感じも気持ちがいいなと思います。こんなに自然豊かで、大阪との距離も近いというのも魅力です。

―逆に困ったこと、不便だと思うことはありますか?
田中:ん~~~~~~~・・・感じないですね。
車にちょっと乗れば必要な用事もできますし。頼れる友人もいますし。果てしない大工仕事も楽しんでますよ。
―ご近所付き合いとか、どうですか?
田中:僕が個展や窯焚きのお手伝いなんかで留守がちなのですが、適度な距離感が保てていると思います。近所の方にはお米や野菜を頂いたり、こちらも大阪のお土産をお渡ししたりして。あと、この物件を紹介してくれた友人のおかげで作家仲間や知り合いが増えました。知り合いのいる土地へ来てよかった、ありがたいなと思いますよ。なるべく伊賀の行事やイベントには参加して、こちらのことを知りたいなと思っています。
―伊賀へ移住したことは作品づくりにも影響していますか?
田中:たぶん、影響していると思います。具体的に・・・言うのは難しいんですが、伊賀に来てこちらの作家さんの作品を見たり、触れたりする機会が増えたのと、この山に囲まれた自然環境の中で、ゆがみだったり、均等じゃない形や表情のものを面白いと思うようになりました。以前は直線的な作品が多かったんですが、こちらへ来て土を生かすような作品が増えました。島ヶ原の土も使っています。
そう言いながら、ろくろを挽く田中さん。
土の塊が彼の手を通してみるみる美しい形になっていくさまは、まごう事なき陶芸家の姿。
真剣なまなざしも、繊細な手の動きも、無駄のない一連の動作が美しく、引き込まれそうになりました。
いいですね。
薪窯で焼いた田中さんの作品。伊賀へ来た影響が如実にあらわれています。
今後はこのような薪窯で焼いた作品、土の質感を生かしたゆがみの面白さ、ゴツゴツした表情のある作品づくりに引き続き挑戦していきたいと、田中さん。
―田中さんの作品はどこで出合えますか?
田中:出合えるとこ…ないですね(笑)。
あ、ここ? ここへ来てもらえれば。大丈夫ですよ、来ていただいても。実際に来てくださった方もいますよ。
と、未完成のリビングに仮置きしてある作品たちを指さす田中さん。
ちゃんと個展やグループ展など関西エリアを中心に定期的に出展、出品もしていますので、彼の作品に触れてみたい方はFacebookやブログをチェックしてくださいね!
・ブログ
―田中さんにとって「移住」とは?
田中:「縁のもの」ですね。
僕は移住してすごく良かった。運も良かった。そう思えるのは、ここへつないでくれた友人、ここでの人付き合い、新しい出会いとか、良かったと思える縁があるから。
僕はたまたま陶芸家で、陶芸の産地へ移住しましたが、モノづくりに携わる同世代の人に田舎暮らしを強くおすすめしたい。
伊賀を例にとれば
広くて
安くて
自然豊かで
(車があれば)生活しやすく
心に余裕をもって
モノづくりに専念できる環境がある。
若すぎると人脈やスキルがないし、
高齢になってからでは不便に感じるかもしれない。
30歳代~40歳代くらいの元気なうちに、こういう場所へ移住することはすごくいいことだと思う。
経験者は語る。
まさに今、伊賀暮らしを実践中の田中さんの言葉には説得力があります。
―ところで壁のないところが増えてやしませんか?
田中:いやいや、そんなことないですよ! だいぶ進みましたよ。ほら、ここに積んであった板がこれだけ減りましたから!(と、力説)。
よかったらご案内しますよ。
ここは空いたままですけどね。
田中:ここをぶち抜いて窓にします。
田中:屋根落ちたんで、防水シートをとりあえず。この上は外ですよ。
田中:リビングができたら使おうと思っている家具たちです。
ん? デジャヴ? 1年前にも聞いたような…。
―一応、お聞きしますが、薪窯はどうなりました?
田中:炭窯をつくりました! 小さいものしか入りませんが、なかなかいい仕上がりになるんですよ。
田中:ここには薪窯を使うときのために薪をストックしてるんですよ。
―で、薪窯は?
田中:まだです・・・。
―最後に、これから伊賀で挑戦してみたいことは?
田中:んー・・・なんでしょうねぇ・・・(数秒考える)。
あ、薪窯をつくりたいです!
そうですよね! そのために移住してきたんでしょーーー!

1年後また同じ写真になりませんように・・・。
そして今年は田中さんが元気で伊賀の冬を越えられますように・・・。
このような感じで田中さんは「知人の紹介」があって伊賀への移住を実現しましたが、
縁もゆかりもない人が伊賀へ移住したい場合はどうしたらいいのでしょうか?
―――移住コンシェルジュ?
2016年4月、伊賀市の「地域づくり推進課」に、移住に関するさまざまな相談に総合的に対応してくれる窓口「移住コンシェルジュ」が新設されました。
三重県伊賀市移住ガイドブック「iga-style」という冊子を発行していてとてもいい感じ。
移住者の声、伊賀の魅力、伊賀MAP、アクセス情報などが分かりやすく、ぎゅっと詰まった冊子です。

さっそく窓口を訪ねてみました。
4月から「移住コンシェルジュ」として活動している舩見くみ子さんと、
同課移住交流係・柘植将係長が取材に応じてくださいました。

「移住コンシェルジュ」の役割は主に5つ
・移住に関する相談窓口
・情報発信
・現地紹介
・コミュニティづくりサポート
・交流イベント
2016年4月から10月末現在までで、移住相談を受けたのは68件。
そのうち39件が近畿地方からの相談で、単身者や子育て世代の相談が多いそうです。
そしてこの窓口を通してすでに6世帯(11人)が移住を実現しています。
舩見:移住相談を受けていると、教えてもらうことがいっぱい。私たちが当たり前や不便に思うようなことが、外から見ると伊賀の魅力だということに気付かせてもらっています。
柘植:単に移住者の数を増やせばいいということではなく、伊賀に愛着を持って、地域に根付いて、伊賀で活躍するような存在になってほしい。それが地域の活性化につながって、伊賀をさらに魅力的な場所にしてくれると思うから。
と、同課では移住相談に乗ることはもちろん、まずは伊賀の魅力を知ってほしいと、情報発信にも力を入れているのです。
―――ズバリ伊賀の魅力は?
二人:「豊かな自然の中にありながら、程よく便利な生活ができること」
移住は暮らし。単に住居を確保するだけでは成り立ちません。
仕事、近所付き合い、病院、学校…と、課題はさまざま。
その点で伊賀は
1 大阪、京都、名古屋など都市へのアクセスが良い
2 保育所や学校、病院、スーパーなど生活に必要な施設がそろっている
3 豊かな自然と独自の文化がある
という具合に「ちょうどいい」条件がそろっているそうで、そのあたりがAERA「移住しやすい街110」の三つ星評価にもつながったようです。
―――取材者の私も移住組。
広島出身、東京で働いてきた私が
伊賀忍者のイメージしかなかった伊賀に嫁いできたのは11年前。
決め手は伊賀酒と伊賀牛のおいしさでした(ホントです)。
今回の取材でも、田中さんの酒器で伊賀酒を飲んだら、さぞおいしいだろうな…とか、そんなことを考えながら作品を見ておりました。
海がないこと、冬の寒さ、みんな知り合い!? という密なコミュニティに驚き、
食べ物のおいしさ、夕日の美しさ、城下町の歴史ある町並み、文化レベルの高さに感動し、
気付けばこうして伊賀を紹介してしまうほど、どっぷりと伊賀に浸かっております。
伊賀には受け継がれてきた「歴史や文化」があります。
それは新しくつくることのできない、ここにしか無いもの。
伊賀に限らず地方のそういう魅力はなかなか外に伝わりにくいもの。
逆に言うと実際に来てみて、住んでみないと分からないこともたくさんあります。
地域の人間が自分の住んでいる地域を愛し、リアルな伊賀の語り部となり、
「移住コンシェルジュ」のような立場で行政がしっかりとサポートしてくれる伊賀。
確かに、移住におすすめ、三つ星です★★★
伊賀市に興味を持った方は、
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