サンマにアジにカマスも豪快な〝姿〟で! 東紀州の名物寿司

2021.10.1

グルメからエンタメまで 佐野 興平

写真提供:(一社)東紀州地域振興公社

三重県には、昔からその土地でよく食べられている個性的な寿司が数多くあります。なかでも三重県南部の東紀州エリアでは魚一匹を丸ごと使う「さんま寿司」「かます寿司」など、ほかの地域では味わえない寿司が、郷土料理として、地元の人々に愛されています。 そんな東紀州ならではの多彩な名物寿司に注目。なぜ地元で根づいてきたのかを取材してきました。お土産として買える店舗も紹介します。

<Index>
ご当地寿司の宝庫、東紀州!
地域やお店によっても違う「さんま寿司」の食べ方
アジやカマスも”姿寿司”に
「めはり寿司」「こけら寿司」など名物寿司はほかにも
東紀州の名物寿司はここでも手に入る!

ご当地寿司の宝庫、東紀州!

東紀州エリアとは、三重県南部の5市町 紀北町、尾鷲市、熊野市、御浜町、紀宝町のこと。熊野灘に面し、漁業がさかんな地域です。まずは「一般社団法人 東紀州地域振興公社」でお話を伺い、東紀州の豊富な名物寿司の種類や、どんなふうに食べられてきたのかを教えていただきました。

お話を伺った星野果鈴(ほしの かりん)さん

◇東紀州にはどんな寿司があるんですか?
星野さん「東紀州全域で食べられているものとしては、ポピュラーな『さんま寿司』『めはり寿司』のほか、『あじ寿司』『かます寿司』もよく食べられています。『こけら寿司(押し寿司)』は紀北町から尾鷲市で食べられていて、『昆布寿司』『まぜ寿司』や『いわし寿司』は熊野市から紀宝町あたりで。珍しいところではタチウオを使った『かしまい寿司』が、御浜町、紀宝町などで食べられているようです。ちなみに”かしまい”とは東紀州の一部地域で使われている方言で、『反対』や『さかさま』という意味です。タチウオを開き、皮目を下にして押し寿司にすることから、この名前がついたとされています」

食べ歩きをしてもらうために『さんま寿司』や『めはり寿司』の店舗マップなども作成したそう。東紀州地域振興公社のHPからダウンロードすることができます。
https://kumanokodo-iseji.jp/download/

◇食べごろの時期はいつですか?
星野さん「アジはサイズの小さい夏が食べごろとされています。『さんま寿司』『めはり寿司』は1年中食べることができて、『かます寿司』も比較的出回る量は少ないですが、いつでも食べられますね」

◇地域によって作り方の違いなどはあるんでしょうか?
星野さん「『さんま寿司』は尾鷲市より北側では、腹開きで押し寿司型。熊野市より南側では背開きで巻き寿司型と違うんですよ。背開きの場合は、今ではかなり減っているようですが、尾頭(おかしら)付きで作っていたそうです。熊野市の山間部などの高菜を使って作られる『めはり寿司』には、家庭によって中に入れる具材が異なるほかは、地域による作り方の大きな違いはありませんね」

左が尾頭付きで背開きのもの、右は腹開きで頭と尻尾(しっぽ)を落としたもの(写真提供:熊野市)
尻尾だけがついた「さんま寿司」がこちら。昔は尻尾を手でつかんでかぶりつくのが通だったとか(写真提供:紀宝町)

◇サンマのさばき方から違うんですね。なにか理由があるんでしょうか?
星野さん「一説によると、熊野市には江戸時代、役所である代官所(だいかんしょ)があったので、武士にとって切腹などを連想させる腹開きや頭を落とすことが避けられたのではと言われていますね」

◇ほかの寿司はどうですか?
星野さん「押し寿司は北側のエリアに多いですね。逆に漁港が少ない南のエリアでは、日持ちする『昆布寿司』や、アユやサンマなどの魚を塩と米飯で2週間から1ヶ月発酵させた『なれ寿司』がよく作られている印象があります」

◇東紀州では、一般の家庭でもいろいろな寿司を作っているんでしょうか?
星野さん「『めはり寿司』は一部の地域では日常的に作られています。『さんま寿司』はお正月など、親族が集まるハレの日のごちそうとして作って食べられていました。最近はサンマの不漁などの理由から家庭で作ることが減ってきていて、スーパーなどで買ってきて食べることが多いですね」
サンマやカマス、アジなどはたくさん獲れたときに長期保存できるよう酢でしめて保存しておいたそう。そして、寿司としても食べることが増えていったとか。

全国で食べられている「さんま寿司」ですが、三重県の東紀州エリアが発祥とも言われています。熊野市にある「産田神社」(うぶたじんじゃ)は、神々の母である「イザナミノミコト」が火の神「カグツチノミコト」を生んだ場所とされ、病弱であったカグツチノミコトが骨付きのサンマを食べて丈夫になったという言い伝えから「さんま寿司発祥の地」として、鳥居前に柱も建てられています。現在でも、毎年1月10日の大祭の「奉飯の儀」(ほうはんのぎ)で、子どもが丈夫に成長することを願って骨付きの「さんま寿司」などが振舞われています。

右側にあるのが「さんま寿司発祥の地」の柱

続いては、実際に東紀州の名物寿司を提供されているお店でお話を伺いましょう。

地域やお店によっても違う「さんま寿司」の食べ方

熊野市の「お食事処 茂丸」店主の森下茂人(もりした しげと)さんは、ご自身の船で漁にも出かける漁師さん。寿司以外でも、地元でとれた新鮮な魚介類を使った多彩なメニューを提供しています。

熊野尾鷲道路の熊野大泊ICからも近く、広い駐車場を完備
現役の漁師でもある森下さん。「茂丸」では寿司のテイクアウトも可能

「茂丸」で提供している「さんま寿司」は、箸でも食べやすいからという理由で、開業時から頭を落としたスタイル。ただ、今でも祝いの席などでは「尾頭付きで」と昔ながらのスタイルで注文されることも多いのだとか。スーパーや魚屋さんなどでも最近ではほとんど頭を落とした形で売られていますが、ときどき「尾頭付き」で販売されているものもあるそうです。

手前が「茂丸」の「さんま寿司」。奥は比較のために熊野市内の店舗で購入した「尾頭付き」のもの。どちらも背開きで作られています。

「茂丸」では、「さんま寿司」は橙(だいだい)の合わせ酢で丸1日から2日ほど漬け込んで作るそう。橙はミカンよりも大ぶりで、酸味の強いかんきつ類です。「海に近いこの辺りでは橙を使うけど、山の方ではゆずを使いますね」と森下さん。さらにエリアによっても違いがあり、和歌山県に近い南の方では薬味に柑橘系を使いますが、北の方では練りからしが使われるとのこと。
さっそく「さんま寿司」を頂きました。ごはんがギュッと詰まっていて、思った以上に食べごたえがあります。身がしまっていて、橙の酸味がとてもさわやか。ふだんあまりお寿司を食べないという人も、これなら食べやすそうだなと感じました。

一口に「さんま寿司」といっても、背開きと腹開き、尾頭のあるなし、薬味が柑橘系かカラシかなど、地域によって細かな違いがあるのも興味深いですね。

アジやカマスも”姿寿司”に

「茂丸」では、8月半ばから1ヶ月ほどが旬の小アジを使った”姿寿司”も、一年中提供しています。「正月はさんま、夏の花火の時期は小アジといって、”姿寿司”を食べる習慣があります」と森下さん。背びれと腹びれを取り、頭をつけたまま開いて、こちらもサンマと同じく橙酢に漬け込みます。全体が柔らかくなっているので、頭から丸ごと食べることができます。

小ぶりなアジをそのまま“姿寿司”に。旬の時期には1日200匹以上仕込むこともあるそう

9月半ばからは、旬を迎えるカマスを使った「かます寿司」が登場。「さんま寿司」と同じく、祭りや祝い事のときに食べられていて、紀北町の海山(みやま)の方では、「かます寿司」も尾頭付きで作るところがあるそう。「茂丸」では頭は落として提供しています。

酢でしめたカマスを、酢飯と一緒に型に入れて押さえて作る押し寿司のスタイル。橙酢でしめたカマスは旨みがギュッと濃縮されて美味です。
尾鷲市で尾頭付きの「かます寿司」が販売されているのを発見

「めはり寿司」「こけら寿司」など名物寿司はほかにも

東紀州では、“姿寿司”のほかにも様々な寿司が親しまれています。和歌山県の郷土料理としても知られる「めはり寿司」は、東紀州全域でも昔からよく食べられているソウルフード。もともとは、山や畑に出かける際、忙しい仕事の合間に手軽に食べられるように作られたのが始まりだそうで、刻んだ高菜をご飯の中に入れ、塩漬けの高菜で包むのが一般的。刻み高菜の代わりに、梅干しやかつお節、鮭などを具にする場合も。

「眼を見張るように大きな口を開けて食べる」「眼を見張るほどおいしい」ことから「めはり寿司」と名付けられたんだとか(写真提供:紀宝町)
(写真提供:尾鷲市)

美しい彩りの「こけら寿司」は、紀北町から尾鷲市周辺で食べられている押し寿司。酢でしめたサンマやアジのほか、ニンジンやシイタケ、ゴボウ、卵などの具材と、防腐作用のあるハナミョウガなどの葉を型の中に酢飯と交互に3~5段重ねていき、押し固めて作ります。劇場などの「こけら落とし」の席で出されていたこと、「こけらぶき」の屋根のように1枚ずつ重ねて具材を盛り付けることなどが、名前の由来と伝えられています。
森林が豊富な東紀州の木材を利用した寿司型が発達したことも、「こけら寿司」が広まった理由の一つと言われています。

東紀州の名物寿司はここでも手に入る!

以前は各家庭で作られていたご当地寿司ですが、最近では地元の方もお店などで買ってきて食べることが増えたそう。スーパーなどでも販売されているので、旅行にいった際にも気軽に手に入れることができます。

<おわせ魚いちば おとと>

尾鷲市にある地場産品直売所。地元で獲れた新鮮な魚介類を中心に、数多くの商品を販売。手軽な価格で楽しめる食堂も人気が高い。
住所:三重県尾鷲市古戸野町2-10
電話番号:0597-23-2100
営業時間:10:00~18:00(店舗)、11:00~14:00ごろ(食堂)
定休日:無休
HP:http://e-ototo.jp/

<道の駅 紀伊長島マンボウ>

鮮魚のほか、紀北町の特産品などを豊富に扱う道の駅。マンボウの串焼きやサメの串焼きなど、ほかではなかなか食べることのできないレアメニューもあり。
住所:三重県北牟婁郡紀北町東長島2410-73
電話番号:0597-47-5444
営業時間:8:15~18:00、土曜・日曜・祝日8:00~18:00(物販)、9:00~15:00(食堂)
定休日:無休
HP:https://42manbou.com/

「道の駅 紀伊長島マンボウ」を紹介した記事はコチラ
⇒「カラスミ」&「マンボウ」 三重県南部の港町で2大珍味を味わう!
https://www.mie30.jp/eat/5864

バラエティに富んだ名物寿司の宝庫、東紀州エリア。種類が豊富なだけでなく、合わせる食材、魚のさばき方などにもバリエーションがあり、地域の人たちの生活に深く根付いて、愛されてきたことが感じられます。東紀州を訪れた際には、ぜひ、地元のお店で名物寿司を食べてみてください。地域の魅力をより感じることができますよ。

<今回の取材先はこちら>
一般社団法人 東紀州地域振興公社
住所:三重県熊野市井戸町371(三重県熊野庁舎内)
電話:0597-89-6172
URL:https://kumanokodo-iseji.jp/

お食事処 茂丸
住所:三重県熊野市大泊町280-3
電話:0597-70-1206
営業時間:10:00~22:00
定休日:月曜・火曜

三重県の取り組み紹介

三重県では多様な主体と連携し、県の農林水産物を使った新たな商品開発やサービスの創出を進める「みえフードイノベーション」に取り組んでいます。

https://www.miefood-i.jp/