ユネスコ無形文化遺産に登録された三重県の祭りを支える人たちの郷土愛がすごい!

2017.3.5

「つづきは三重で」市民記者

【宵山】上野天神祭のダンジリ行事(1)

【取材】kanzaki chiharu

2016(平成28)年12月1日(日本時間)、「山・鉾・屋台行事」のユネスコ無形文化遺産登録決定! のニュースが全国をかけめぐりました。

今回登録された「山・鉾・屋台行事」に含まれるのは18府県33件の祭礼行事。

わが三重県では「四日市市・鳥出神社の鯨船行事」「伊賀市・上野天神祭のダンジリ行事」「桑名市・桑名石取祭の祭車行事」の3つが登録され、知る人ぞ知る地域の伝統的祭礼行事が世界に発信されました。

上野天神祭の様子(写真提供=伊賀上野観光協会)
▲上野天神祭の様子(写真提供=伊賀上野観光協会)

”そもそも無形文化遺産って何??「山・鉾・屋台行事」というグループの謎、そして33件が登録されるまでの経緯や詳細など”については文化庁のホームページをご覧いただくとして・・・。

まずは私が住む伊賀で400年続く「上野天神祭」の歴史や文化、そしてそこに関わる人々へ迫ってみたいと思います。

ーーー上野天神祭とは?

・400年以上の歴史を持つ上野天神宮(菅原神社)の秋の祭礼行事。

・毎年10月23日~25日開催。23日宵山、24日足揃えの儀(鬼の出陣式)、25日本祭。

・本祭では神輿や鬼行列、そして9基のだんじりが城下町を巡行。

・多いときは10万人以上の見物客でにぎわう伊賀地区最大級の秋祭り。

・2002(平成14)年 国の重要無形民俗文化財に指定

・2015(平成27)年 ユネスコ無形文化遺産へ登録

上野天神祭宵山の様子(写真提供=伊賀上野観光協会)
▲上野天神祭宵山の様子(写真提供=伊賀上野観光協会)

◆上野天神祭 だんじり基礎知識

1758(宝暦8)年には現在のだんじりの原型といわれる武者車が登場しており、次第に車輪付きの華麗なだんじりの形態が確立され、修復を繰り返し現在に受け継がれてきました。
祭り筋と呼ばれる9つの町が、町ごとに1基を所有。
各町ごとに名前がついており、装飾幕や金具の細工などのデザインも異なります。

上野天神祭_だんじり
上野天神祭_だんじり

魚町『紫鱗』しりん
東町『桐本』きりもと
向島町『鉄英剣鉾』てつえいけんぼこ
中町『其神山・葵鉾』きしんざん・あおいぼこ
福居町『三明』さんめい
小玉町『小蓑山』こみのやま
新町『薙刀鉾』なぎなたぼこ
鍛冶町『二東・月鉾』にとう・つきほこ
西町『花冠』かかん

※平成28年度巡行順

 

 

◆上野天神祭 鬼行列基礎知識

鬼町と呼ばれる4町(上野相生町、上野紺屋町、上野三之西町、上野徳居町)で受け継がれてきた鬼行列は全国的にも珍しく、上野天神祭を象徴する要素の一つです。
迫力ある鬼面は江戸時代初期から末期作のものが中心で、古いものでは桃山時代の面もあるそう。
一部は県指定文化財となっています。
実際の祭りでは町の人が鬼面をつけ、100体以上の鬼となり、行列をなして城下町を練り歩きます。

「釣鐘(つりがね)」という「ひょろつき鬼」(写真提供=伊賀上野観光協会)
▲「釣鐘(つりがね)」という「ひょろつき鬼」(写真提供=伊賀上野観光協会)

祭りの日、普段は静かな城下町が人で溢れ返ります。
写真中央にいるのは鐘を背負った「ひょろつき鬼」で、揺さぶられるように“ひょろつき”ながら道を歩き、子どもに急接近!
あちこちで「ギャーーーー」と子どもの泣き声が聞こえるというのも風物詩の一つ。
これは、ひょろつき鬼に泣かされた子どもは「”かんのむし”が落ちて、無病息災で過ごせる」という伝承があるためで、小さなお子さんを抱えて鬼を待つ親御さんも多数います。

▲「斧山伏(よきやまぶし)」という「ひょろつき鬼」(写真提供=伊賀上野観光協会)
▲「斧山伏(よきやまぶし)」という「ひょろつき鬼」(写真提供=伊賀上野観光協会)

しかし厄除けとはいえ、鬼の面、本気で怖いんですよね・・・。
だから子どもたちも本気泣きです。

ーーーユネスコ無形文化遺産登録のポイント&行事

上野天神祭の基本情報をご紹介したところで、同祭の保護団体である上野文化美術保存会の中村晶宣理事に今回のユネスコ無形文化遺産登録のポイントをお尋ねしました。

上野文化美術保存会、理事の中村さん。資料を片手に丁寧にお話してくださいました。
▲上野文化美術保存会、理事の中村さん。資料を片手に丁寧にお話してくださいました。

中村さん:33の登録と報道されましたが、正確には2+31なんです。地域社会の安泰や災厄除けを願い、地域の人々が一体となり執り行う「山・鉾・屋台」の巡行を中心とした行事で国指定無形民俗文化財に指定されている行事が33。そのうち「京都祇園祭の山鉾行事」と「日立風流物」はすでに単独でユネスコに登録されてまして・・・。一つ一つ登録するのではなく、まとめて登録しようというのが今回の動きです。決定資料には詳細にいろんなことが書いてありますが「地域の人たちがその祭りを担い、運営していること」が重要なポイントですね。

ーなるほど。では、実際に祭り町(9町)の人たちは、秋のお祭りまでの間にどんな準備をするのでしょうか?

ーーー上野天神祭と祭り町の1年

・4月 だんじり会館への春のだんじり入れ替え(3基ずつセットで入れ替え)

・7月 だんじりの装飾品の虫干し

・9月 「籤取式(くじとりしき)」本祭のだんじり巡行の順番を決めるくじ引き

・10月 囃子の練習開始

・祭りの1週間前だんじりの組み立て

・10月23日~25日 囃子方、梃子方、警護役、引き方、采配役として参加

→片づけ(このときにだんじり3基はだんじり会館へ)

【宵山】上野天神祭のダンジリ行事

ーーー伝統的な祭りを支える地域ならではの習慣は?

・祭り期間、城下町近隣の小中学校では、だんじりに乗る子どもは休みになる(届け出を出して公休扱いとなる)。

・だんじりや幕など、祭りに使用するものの修繕は基本的に各町で行う。

・祭りのよび使いに「甘酒」を持参したことから別名「甘酒祭り」と呼ばれている(後ほど詳しく説明します)。

ーーー暮らしと祭りは実に密接。でもだからこそ、続けていくのも大変そう・・・。

中村さん:そうですね、どの町も次世代の担い手問題に直面しています。少子化で子どもが少ないですし、世話役もどんどん高齢化して町の人間だけでは足りない。だから企業の方、ボランティアの方に手伝ってもらったり、最近ではネットで募集して外国の方や留学生などにも参加していただいてます。大変な面もありますが、祭りがあるからつながっている部分もありますし、私たちにとって天神祭は生まれたときから身近にあるもの。今回の登録をきっかけとして、こういった問題の解決につながっていけばと願っています。担い手がいないと続けられませんから。

45年前の中村さん。囃子方としてだんじりに乗り祭囃子を奏でています。
▲45年前の中村さん。囃子方としてだんじりに乗り祭囃子を奏でています。

ーーー「甘酒祭り」と城下町文化

中村さんの普段の顔は、祭り町の一つ、上野新町で100年以上続く「中村糀店」の3代目店主です。

城下町の細い路地に「こうじ」の看板を掲げる中村さんのお店を訪ねました。

中村糀店

各家庭で味噌や甘酒をつくるのが当たり前だった時代、麹(米麹は糀とも表記する)は一般家庭の主婦が日常的に買い求めるもので、伊賀上野の城下町にも10軒ほどの「こうじ屋」があったそう。

時代の移り変わりとともに、1軒、また1軒と姿を消し、現在、米麹を製造販売する専門店はこちらのみとなりました。

深く冷えた某日、凍えながらお店に入ると中村さんの奥さんである万利子さんが「甘酒でもどうぞ」と温かく迎えてくれました。

中村万利子さん

自然でやさしい甘みとぬくもりに心身ともに癒やされていると、こんなお話をしてくださいました。

万利子さん:伊賀には昔から、祭りが近づくと城下町の各家庭で甘酒をつくり、それを重箱に詰めて親戚に配りながら「天神祭に来てだーこ(伊賀の方言:来てくださいの意)」と招待をする“よび使い”という習慣がありました。甘酒は氏神さんにお供えする地域もあったので、各家庭ごとに甘酒のつくり方が受け継がれてきたんですよ。

甘酒

そんな風習もあり、上野天神祭は「甘酒祭り」とも呼ばれるそうです。
年々、自宅で甘酒をつくる家庭も減ってきているようですが、現在でも秋の上野天神祭の前は甘酒の材料となる糀を求める人で店はにぎわいます。
全国的にも数少なくなった「麹(こうじ)屋」が今も残るのは、こんな城下町文化があるからなんですね。

◆麹(こうじ)豆知識

「麹」とは・・・米や麦、大豆などに麹菌を繁殖させたもの。味噌、醤油、みりん、酒などの発酵食品の仕込みに欠かせない存在。糀と表記するのは、米麹のことで麹菌が繁殖した様子が、米に花が咲いたように見えることから。

中村糀店の糀には地元の伊賀米が使用されています。
▲中村糀店の糀には地元の伊賀米が使用されています。

仕込みは、洗米の後一晩水に浸けた米を翌朝蒸し、店の奥にある「麹室」で3日間かけて行われます。

麹菌を繁殖させる室は、温度や湿度の管理が難しく関係者以外立ち入り禁止。この日は特別に見せていただきました。
▲麹菌を繁殖させる室は、温度や湿度の管理が難しく関係者以外立ち入り禁止。この日は特別に見せていただきました。

出来上がった糀は麹蓋(こうじぶた)といわれる小さな木の箱に入れて、店頭の板間に高く積み上げられます。
家族3人で手仕込みしているので一度の仕込みでつくれる量は麹蓋100~150枚ほど。

糀は1枚あたり約550グラムで800円。
▲糀は1枚あたり約550グラムで800円。

店の様子

「1枚ください!」と声をかけると・・・、

麹蓋からじょうごへ糀を崩し入れてくれます。
▲麹蓋からじょうごへ糀を崩し入れてくれます。
こちらのじょうごは竹製で、毎年和紙を貼り替えて、初代の頃から使っています。
▲こちらのじょうごは竹製で、毎年和紙を貼り替えて、初代の頃から使っています。
慣れた手つきであっという間に紙袋の中へ。
▲慣れた手つきであっという間に紙袋の中へ。

今はこんなふうに紙袋に詰めておき、糀を販売。袋に1枚、2枚と書いてあるのは麹蓋の枚数を指しているんですね。

こうじ

最近は「飲む点滴」「飲む美容液」といわれるほど甘酒ブームもきているようで、糀を求めてくる若いお客さんも増えてきたそうです。

だんじりの模型

お店を後にする際、ふと入口に目をやるとだんじりの模型が飾ってありました。

私が上野天神祭を初めて見たのはもう10年以上前でしょうか。
城下町に雅な祭囃子が響き、豪華絢爛で巨大なだんじり、神秘的な鬼の行列、そして神輿が巡行するさまに遭遇したときの高揚感は今でも鮮明に覚えています。

まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような、独特の空気。

規模も伝統もやっていることも、とにかくすごいのですが、正直、伊賀に住むまで全然知りませんでした・・・。
地方の知られざる「すごいこと」ってまだまだ山のようにあるんでしょうね。


ーーー巨大だんじりを半年に1度入れ替え!

上野天神祭のすごさを少しでも多くの人に体感してもらいたいのですが、祭りがあるのは年に3日間だけ。というわけで、今回は「だんじり会館」をご紹介します。

だんじり会館(伊賀鉄道・上野市駅から徒歩約5分)。入口には「祝ユネスコ登録」の垂れ幕が。
▲だんじり会館(伊賀鉄道・上野市駅から徒歩約5分)。入口には「祝ユネスコ登録」の垂れ幕が。

「だんじり会館」は上野天神祭で実際に使うだんじりと鬼行列を常設展示した施設で、祭りシーズン以外でもその様子を体感することができます。

さらっと書きましたが、レプリカでも模型でもなく、本物のだんじりが展示されているというのがすごい!
だってだんじりって高さ4メートル以上はありますよ!?
全9基あるだんじりを3基ずつ展示しており、半年に1度の入れ替えのときはこの正面扉が上のグレーのところまで開くそうです。

会館の入口を入ってすぐ、1階の展示室にはガラス越しに壮大な景色が広がります。

左から鉄英剣鉾(向島町)、桐本(東町)、紫鱗(魚町)のだんじり。※2017年2月現在の展示。
▲左から鉄英剣鉾(向島町)、桐本(東町)、紫鱗(魚町)のだんじり。※2017年2月現在の展示。

そしてこちらは鬼行列を再現した展示。
迫力ある鬼面に少しビビります。

鬼行列

ここで伊賀上野観光協会のイケメン広報、安田聡志さんに「もっとだんじり会館を楽しむコツ」を教えてもらいました。

伊賀上野観光協会の安田聡志さん。
▲伊賀上野観光協会の安田聡志さん。

(1)だんじりを上から望める

だんじりを上から望める

安田さん:だんじりの展示を2階からも見ることができるのは「だんじり会館」ならではです。

だんじりを上から見ると。

(2)大型スクリーンで伊賀上野の文化に触れる

大型スクリーンで伊賀上野の文化に触れる

安田さん:館内の大型スクリーンでは上野天神祭を中心に、伊賀上野の文化を毎時15分と45分に放映しています。お祭りの雰囲気はもちろん、伊賀上野の風土や自然、伝統についても網羅されているのでお見逃しなく!

(3)だんじり土産もチェック!

だんじり土産もチェック!

安田さん:館内と隣接する売店にはお祭り関連のお土産がいろいろあります。土鈴、置物、ポストカード、パズル、菓子など記念の一品を見つけてください。

(4)春には入れ替え行事も

安田さん:上野天神祭は世界に誇れる伊賀の文化です。だんじりがすぐ目の前を通る迫力、装飾幕の刺繍や、細かな細工の素晴らしさ、お囃子の響きなど、ぜひ秋のお祭りを見にいらしてください! あ、4月にだんじりの入れ替えもありますよ。このときも間近でだんじりを見るチャンスですね。

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◆だんじり会館◆

住 所 三重県伊賀市上野丸之内122-4 

電 話 0595-24-4400

入館料 大人500円、小人300円

休館日 だんじり入れ替えの日、10月23~25日、12月29日~1月1日

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上野天神祭の日は、日頃、城下町で商売しているあの店主も、あの社長さんも、あの職人さんも、みんなが正装して、それぞれの役割を果たしています。

祭りが始まるまでの準備、当日の参加、それだけではない、日々の暮らしに密着した文化。
これは「催事」ではなく「神事」であり、それを継承し続けてきた人たちにとってはもっと大事なものなのかもしれません。

きっと四日市市の「鳥出神社の鯨船行事」にも、桑名市の「桑名石取祭の祭車行事」にもそれを担うたくさんの人の物語があるはず。
ユネスコ無形文化遺産の登録を機に、まずは参加してみることが、祭りの継承につながる一歩かもしれません。

 


◆春のダンジリ入れ替え◆

日時 平成29年4月23日(12時頃~)

場所 ハイトピア北駐車場

ダンジリ6基を展示(魚町、向島町、東町、西町、福居町、鍛冶町)

※雨天の場合は展示イベントは中止、入れ替え行事は延期です。

問い合わせ先 上野文化美術保存会事務局 0595-23-9779(西部公民館内 担当:木村)


※表記補足1「だんじり」の一般名称はひらがな、ユネスコ無形文化遺産に関わる表記はカタカナの「ダンジリ」で統一しています。

※表記補足2「こうじ」の一般名称は「麹」、米麹を指す場合は「糀」で表記しています。


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