妊娠するとアワビ、布団で赤ちゃんが巻かれるとは? 出産にまつわる祝いごとの風習

2018.4.27

「日本のよさ」探し人 堀内みさ

名付け提供MV

三重ならではの祝いごと
それぞれの風習に込められた、子への思い

 それぞれの地域には、人々が長年にわたり、守り伝えてきた独特の風習があるものです。今回紹介するのは、三重県の出産にまつわるお祝いごと。聞けば尾鷲(おわせ)市では、生まれて間もない赤ちゃんを、グルグル巻きにした布団でくるむとか。一方、志摩市では、妊婦がアワビを食べる風習があるそうです。実際にお祝いごとをした、地域の方に話を聞きました。

【尾鷲市】
グルグル巻きの布団で
赤ちゃんをくるむ“名付け”とは?

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話を聞いたのは、尾鷲市役所職員の高濵圭二(たかはまけいじ)さん。2人の娘の父である高濵さんは、お子さんが生まれたときに、地元に伝わる出産のお祝いをしました。今回は、昨年行った次女のお祝いの画像を見せてもらいながら、話をうかがいました。
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▲写真は昨年行ったお祝い。画像提供:高濵さん

——このお祝いごとは、何と呼ばれているのですか?
高濵さん「『名付け』ですね。内容としては、『命名』と『お食い初め』の両方を合わせたようなものです」

——みなさん、ごく普通にされるのでしょうか?
高濵さん「友人などに尋ねたことはありませんが、していると思いますよ。うちでは、自分がしてもらったときのことを聞いて、同じようにしました」

——生後、どれぐらいでするのでしょう。
高濵さん「特に決まっていないと思います。退院してすぐの生後1週間から1カ月くらいでしょうか。うちの場合は、実家で出産した妻が戻ってきてからだったので、生後3カ月ほどで『名付け』をしました。初宮参りをした帰りに、料亭で行う人もいるそうです。僕も長女のときは自宅で、次女のときは料亭でしました」

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▲赤ちゃんが座っているのは、グルグル巻きの布団! 画像提供:高濵さん

 注目したいのは、グルグル巻きにした布団に赤ちゃんがくるまれていること。写真ではわかりにくいので、タオルを布団に見立てて高濵さんに実演してもらいました。当日はごく普通の掛け布団を使用したそうです。

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まず布団を縦長に2つに折ります。

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それをグルグルと巻いた後…。

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布団を立て、中心部分に赤ちゃんが入るくらいのスペースを作り、周囲をひもで結びます。中心部には、赤ちゃんの上半身が出る高さになるまで、土台となるタオルをギュウギュウに詰めるとか。さらに首が座っていない赤ちゃんのために、頭の支えになるよう長い板を後ろに差し込み、それをタオルで隠します。最後に初宮参りに着る着物を布団にかけ、名前を書いた紙を飾って完成です。

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次女の「名付け」で高濵さんが用意した祝い着は、高濵さんのお姉さんが生まれたとき、「名付け」のために新調されたもの。本来は奥さまの実家が用意するそうですが、奥さまの出身、三重県紀宝(きほう)町には名付けの風習がなく、また、せっかくお姉さんの祝い着もあることから、借りることにしたそうです。高濵さんとお兄さんが使った男児用の青色の祝い着も、高濵家に大切に保管されているとか。

 

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▲赤ちゃんの額には、口紅で赤い点を付けます。画像提供:高濵さん

記念撮影の後は、お食い初めです。途中、泣いたり、寝たりしてしまう赤ちゃんをなだめながら、赤ちゃんにごはんを食べさせるマネをします。

当日は、高濵さんご夫婦と高濵さんの両親、それに奥さまの両親の3家族が、赤ちゃんを見守りました。お食い初めの後は、赤ちゃんを囲み、3家族みんなで食事をしたそうです。

——この風習は尾鷲市だけのものですか?
高濵さん「紀北(きほく)町でもしているそうです。ただ、額に口紅で付ける印が、紀北町の漁師町では男児が『大』、女児は『小』と書くと聞いています。また、紀伊長島区では、男女ともに『犬』と書く地区があるそうです」

——料理の内容に決まりはありますか?
高濵さん「必ず付くのは鯛です。他にはアワビ、なます、赤飯、刺し身の盛り合わせ、煮豆といったごちそうが、お膳に並びます。御神酒(おみき)もあって、子どもに飲ませるマネもするんですよ」

——そもそも、なぜこの風習が行われるのでしょう。何か伝え聞いていることはありますか?
高濵さん「一般的なお食い初めを兼ねて、氏神さまに我が子の誕生をお知らせし、神様の子どもにしていただく風習だと聞いています。布団は寝るところ、つまり住まいのことで、着る物、食べ物、布団と、衣食住に困らないように、また、“布団にくるんで大事に育てますので、どうか健康に育ちますように”という願いを込めて、家族でお祝いするということのようです」

最後に「名付け」をした感想を聞いてみました。「普段3家族が揃うことはなかなかないので、そういう意味でもやってよかったです。記念撮影で写真がずっと残るのもいいなと思います」赤ちゃんの姿をみんなで見守る温かい空気が、写真を通しても伝わってきます。

子どもの誕生を家族みんなで喜び、健やかな成長を願う尾鷲市の「名付け」。長年続く風習には、理屈を超えたわが子へのあふれる思いが詰まっていました。

 

【志摩市】
「妊婦にはアワビ」は志摩市では周知の事実!?

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画像提供:志摩市

出産前に、海の町ならではの風習があるのは志摩市。“アワビを食べると目がきれいな子どもが生まれる”という言い伝えがあり、妊娠すると両親をはじめとする近親者からアワビが贈られるそうです。「行事や儀式のようにいつ食べるとは決まっていません。食べ方は、お刺し身でいただきます。家庭によっては、お店でアワビを食べることも」と話すのは、志摩市役所職員の池田路子(いけだみちこ)さん。池田さんは最初の妊娠がわかったとき、ご両親からアワビを贈られたそう。

 

——アワビを受け取ったとき、どんな気持ちでしたか?
池田さん「やはり、うれしかったですね。みんなが祝福してくれていると実感でき、出産に前向きな気持ちになりました」

——実際にお子さんは目のきれいな子に?
池田さん「私はそう思っています」

アワビには栄養があり、傷を早く癒やす力があるといういわれも。そのため、志摩市ではケガによる入院や、養生が必要なときもアワビを食べる習慣があるとか。また、妊娠中だけでなく、出産直後もアワビを食べるという風習もあり、アワビの栄養の高さが関係しているのかもしれません。

——アワビに関して、印象に残っているエピソードはありますか?
池田さん「第2子出産直後、入院していた病院に母がアワビを持って来てくれました。でも、出産した子を見に行っている間に、上の子が食べてしまって、私が食べられなかった思い出があります。アワビは本当においしいので、子どもたちも大好きなんです」

——将来、もし、お子さんが妊娠したら、やはり池田さんもアワビを贈りますか?
池田さん「ええ、絶対に。私自身、本当にうれしかったですし、アワビを食べて元気になったと思っているので」

ちなみに志摩市では、毎年「あわび王国まつり」が開催され、アワビやフクダメ(アワビを小さくしたような貝。別名トコブシ)のふるまいや、志摩市で水揚げされた海産物、地元の特産品など約50店舗が並ぶとか。今年は志摩総合スポーツ公園で、5月4日(祝・金)に行われます。出産のエピソードを思い出しながら、アワビを求めて志摩市に足を運ぶのもいいですね。

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グルグル巻きにした布団に赤ちゃんを入れる。妊婦にアワビを贈る。長く続く風習の根底にあるのは、子どもを大事に思う気持ち。だからこそ、代々受け継がれているのでしょう。2つの独特な風習が、途絶えず続けられることを願っています。

★2018あわび王国まつり
開催日時:2018年5月4日(祝・金)
会場:志摩総合スポーツ公園(志摩市志摩町布施田1101)
https://www.kanko-shima.com/html/schedule/05_awabi.html

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