10代から50代まで! 三重県農業大学校で学び、農業を仕事にする

2018.2.2

エンタメ&生活情報ライター 入谷晴美

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三重県で農業をめざす人を全面的にサポート

私たちの食と命を支えている農業。その農業を趣味ではなく、“仕事”にするための知識を身に付けられるのが、松阪市嬉野川北町にある三重県農業大学校(以下、三重農大)です。

三重農大では現在、主に高卒生を対象とした「養成科二年課程」と、主に社会人経験者(60歳以下で農業経験問わず)を対象とした「養成科一年課程」を設置し、両課程共に水田作、茶業、野菜、花き、果樹、畜産の6コースが置かれ、地元での就農や、Uターン転職で農業をめざす人をサポートしています。茶業、畜産コースがあるのは、特産である伊勢茶や松阪牛がある、三重県ならでは。現在、10代~50代の43人が学んでいます。※2018年1月1日現在。

まずは三重農大を卒業し、農業で生計を立てるという“夢”を実現させた先輩を紹介しましょう。

 

サラリーマンから転身
イチゴに魅せられ、伊賀の大地で起業

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訪れたのは、伊賀市の観光農園「Tomi Berryいちご園」。経営する冨田高平(とみた こうへい)さん(34歳)に話を聞きました。
冨田さんは大学卒業後、四日市市内の自動車部品メーカーに就職し、海外出張に飛び回る生活を送っていたそう。ところが突然、髄膜脳炎という難病に襲われます。言語・記憶障害に陥り闘病を余儀なくされますが、じっくり考える時間が持てたことが、冨田さんにとって大きな転機に。

病気が回復したとき、これまで全く興味がなかった“農業”のイベントを、偶然ネットで見つけます。農業の可能性について書かれたそのサイトに引き込まれ、フェアの開催場所は東京でしたが、「とにかく行ってみよう」と夜行バスでフェアへ。そこで、三重農大を紹介されたと、冨田さんは振り返ります。「そのイベントがすばらしかったうえに、“これからの農業を支えるのは君たちだ”みたいに言われまして(笑)。三重農大の願書提出の締め切りが迫っていたこともあり、その場で入学を決意しました」

三重農大には2014年4月に入学。夏頃にイチゴ農園の起業を決め、学びながら、土地探しなど準備を始めることに。学校側の支援もあり、運よくJA所有のビニールハウスを借りることができ、現在の場所で開業できるようになりました。
なぜイチゴに決めたのかを聞くと、「誰もが好きな果物だということですかね」と冨田さん。「イチゴが嫌いな人はいないでしょ。僕もこの赤い色と、かわいらしい形にパワーをもらっているような気がします。自分で作って、それを届けて喜んでもらえる。そのことが一番だと思ったんです」

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▲無駄な葉を除くなどの管理作業を行う冨田さん

開業して3シーズン目を迎えたTomi Berryいちご園では、「紅ほっぺ」「章姫(あきひめ)」「かおり野」「さちのか」の、4品種のイチゴが実ります。ハウスの中はポカポカとして、春のような暖かさ。取材時にはイチゴ狩りの時期(1月~5月頃)を迎え、さらに日に3度の販売先への配達など多忙を極めていましたが、「お客さんの反応がダイレクトにわかるので楽しいですね」と、笑顔の冨田さん。スタッフにも「お客さんとのコミュニケーションを大切に」と伝えているそう。

“地元に貢献したい”との思いも強く、地元菓子店とのコラボで「イチゴを使ったスイーツ」を創作し、試食してもらうイベントなども開催しています。

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▲写真は共に甘酸っぱい「紅ほっぺ」。左はケーキなどにトッピングされるサイズ、右は生食用としてそのまま食べたり、カットされて使われるサイズ。お客様のニーズに合ったイチゴを届けています

「品質の維持や収穫量を増やしていきたいなど、課題はたくさんありますが、来た人に楽しんでもらえる“イチゴのテーマパーク”のような場所になればいいな、と思います。農業はやってみなければわからないことばかりですが、奥が深くておもしろい。チャレンジしがいがあるのではないでしょうか」。実現させた“夢”は現在進行形。さらなる夢に向かって、充実感いっぱいの表情で語ってくれました。

 

農業をビジネスに。頼もしき若き担い手たち

イチゴ農園を営む冨田さんが学んだ三重農大は、どんな学校なのでしょうか。そして、学生たちは、どのような思いで農業に取り組んでいるのでしょうか。三重農大を訪れました。

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養成科一年課程で学ぶ木村友幸(きむら ともゆき・写真右)さん(33歳)と、養成科二年課程2年の阿比倉大輔(あびくら だいすけ・写真左)さん(19歳)が、校内を案内してくれました。専攻も年齢も違う2人ですが、とても仲が良さそう。

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農大の敷地内には、温室や水田、畑が広がり、学生が中心となり管理しています。

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「花きコース」では、温室で花の栽培を実習。シクラメンのほか、観葉植物や花壇苗などが栽培されていました。

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校内の倉庫には「水田作コース」の学生がつくった米が積まれていました。

 

農業ってカッコイイ! 会社を辞めて三重農大へ

三重県出身の木村さんは、県内での建設関係などの会社勤務を経て2017年4月三重農大に入学。野菜コースを専攻しています。
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社会人を経験後、三重農大に入学したきっかけを聞いたところ、「これからの日本を考えたとき、農業と観光が大切になってくるのでは、と考えました」と、木村さん。また、あるドキュメンタリー番組で、80歳ぐらいのおじいさんが自分の畑で作った野菜を、おなかをすかせた子どもたちに食べさせているのを見たそう。「確か、南アフリカ辺りだったかな。その姿を見て『カッコええなぁ』と思いました」

農業を志したきっかけは、何ともロマンチックな木村さんですが、「農業でやっていくためには、しっかり理論を学ぶことが大切だと思い、三重農大へ入ることにしました」と話します。「これまで、農家で経験的に受け継がれてきたことを、まねて覚えるだけではなく、“なぜ、こうするのか。なぜこの順番なのか”など、理由がわかれば、また別の角度から、より効率の良いアプローチを考えつく可能性もあるからです」。三重農大ではマーケティングも含めた理論の講義があり、農業実習や先進農家での農家実習など、実践の機会も多彩に用意されているそう。

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▲三重農大では農耕用大型特殊免許(単体、けん引)、フォークリフト運転技能、危険物取扱者などの免許・資格が取得できます

将来はイチゴと、やまのいもの一種で高級和菓子などに使われる、多気町が原産地の「伊勢いも」の生産を主体とする農業経営を行うことが目標ですが、「卒業後は県内の農家のもとで研修を行いながら、さらにさまざまなノウハウを勉強する予定です」。

高校時代のファームステイが畜産を学ぶきっかけに
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 阿比倉さんは県内の農業高校出身。高校では食品加工を学んでいましたが、生産もやってみたいと三重農大へ進み、畜産コースを専攻しています。高校時代の夏休みに畜産農家へファームステイし、牛の世話をしたことから“畜産もいいなぁ”と思ったそう。「それに三重県には松阪牛もあります。勉強してみたいと思いました」

阿比倉さんは、現在、畜産コースの実習で協力を受けている、三重県畜産研究所に通っています。三重農大からは車で10分ほど。ここで乳牛と繁殖和牛の飼養管理を学びながら、体重測定、データの集計など、研究の補助をしています。「動物はもともと好きでした。シンプルにかわいいですね。自分が手をかければかけるほど気持ちは伝わります」と阿比倉さん。さらに、「三重農大の2年間はあっという間でした」とも。卒業後は、大内山酪農農業協同組合に就職が決まっているそう。

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三重農大は学生寮も完備。入寮か通学は選べますが、木村さん、阿比倉さんは、共に寮生活を送っています。「朝ごはんは8時からで、食事の後は、実習施設やほ場など、それぞれの持ち場へ向かいます」と阿比倉さん。通える距離に家がある木村さんも、“通学の時間がもったいない”と、寮生活を選んでいるそう。

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朝食もランチも校内の食堂で。学生がつくったお米や野菜もメニューに並びます。
食堂の青田つや子(あおた つやこ)さんが考案する食事は、「特別な材料を使っていないのに、何でもおいしい」(木村さん)と好評。年末には、もちつきをするなど季節のイベントも行われ、学生生活に彩りを与えてくれます。

 

全国初! “みえ農業版MBA”が2018年度から始動

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奥村一也(おくむら かずなり)校長は、「わが校では生産するだけでなく、食品加工や販売、マーケティング、いわゆる“6次産業化(※)”が展開できる、実践教育をめざしています。週に一度開く『農大マルシェ』や、年に一度の『農大祭』など地域への貢献、交流も大切にしています」と話します。

※6次産業化=農林水産業者が生産(一次)、加工(二次)、販売(三次)まで一体的に取り組んだり、二次、三次業者と連携して、新商品やサービスを生み出したりすること

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▲毎週水曜日、農大で収穫された農産物をキャンパス内で販売する「農大マルシェ」。時間は0時15分から0時45分まで(画像提供:三重県農業大学校)

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▲「農大マルシェ」では、季節の野菜や花、お米などがお値打ちに購入でき、地元の人たちに人気(画像提供:三重県農業大学校)

2018年度からは、全国でも初の試みとなる「みえ農業版MBA養成塾」を開設し、次代の農業を担う経営者、農業ビジネスの起業家などを2年間のコースで育成。農業生産の現場で雇用型インターンシップ生として働きながら、農業経営のみならず、経営学やリーダーシップ論、会計学、ファイナンス、さらにはフードマネジメントを学べる塾です。
開設する初年度は8つの先進的な農業法人等が、インターンシップ生の受入先になって、栽培や経営の知識、技術、ノウハウなどを学べるとのこと。また、三重大学大学院の地域イノベーション学研究科とも、塾との併学や講座受講などで連携しているそう。奥村校長は、「一人でも多くの若い人たちが、農業ビジネスの担い手として成長できるようになれば」と、期待を寄せています。

三重農大ではさらに、農産物(食品)の安全と環境保全、労働の安全を確保するための「GAP」について、積極的に取り組んでいくと言います。「平成30年度から、GAPを学ぶ授業を必修にする予定」とも。

学生も教師も農業実習を楽しそうに、しかし作物と真剣に対峙している姿が印象的でした。高齢化が加速する中で、若い農業人が独り立ちできるよう精一杯、応援する。そんな三重農大の心意気を感じました。

 

今回紹介したのはこちら。
★Tomi Berryいちご園
住所:伊賀市猪田1367-1
電話:080-1607-1115
営業時間:10時~18時 火曜定休
イチゴ狩りは1月~5月頃まで、10時~16時。45分食べ放題▼大人1,800円、小学生1,600円、2歳以上1,400円▼3月5日~4月8日は大人1,600円、小学生1,400円、2歳以上1,200円▼4月9日からは大人1,400円、小学生1,200円、2歳以上1,000円
https://tomiberry.jimdo.com/
★三重県 農業大学校(専修学校)
住所:松阪市嬉野川北町530
電話:0598-42-1260
http://www.pref.mie.lg.jp/nodai/hp/index.htm
※水曜に開催される「農大マルシェ」の情報もWebサイトから。
★みえ農業版 MBA養成塾
応募・選考は、プレ申し込みは2018年1月31日(水)まで受付。インターンシップ先との面談を経て、本申し込み後、書類審査・面接試験が行われます。詳細は「みえ農業版MBA養成塾サイト」で確認を。
https://mie-nodai-mba.jp/

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