三重県南部・尾鷲(おわせ)市で発見! 干物でも、燻製でもない、「梶賀(かじか)のあぶり」製造現場へ

2018.1.5

フードライター 高田強

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梶賀の漁師だけが知っていた珍味がメジャーシーンへ
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三重県南部に位置する尾鷲市の最南部、賀田(かた)湾沿岸にいくつかある漁港の町の一つが梶賀町です。こちらで作られている「梶賀のあぶり」が、魚好きの間で注目を集めています。

関西の情報誌などで、海鮮居酒屋や魚介料理専門店の取材を多く担当するライターとしては、どんな味わいなのか非常に気になる! そこで、「あぶりとはなんぞや?」という疑問を、舌と胃袋で解決すべく、梶賀町へ向かいました。※記事中の価格は税込み。

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大阪から車で約3時間30分。到着したのは、穏やかな風が吹く梶賀港です。

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港を中心に、周辺の斜面には多くの家が建てられています。めざすは、「梶賀のあぶり」の販売とPRの拠点である「梶賀 網元ノ家」。名前にある“網元”とは、漁網・漁船などを持った、漁師たちの雇い主のことです。

 

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地元の網元の家だった、築80年といわれる建物を改築した「梶賀 網元ノ家」は、地域のコミュニケーションスペースとしての役割も。中には和カフェがあり、梶賀のあぶりを使ったメニューを提供しています。開店しているのは週末の金・土曜だけなので、要注意。

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梁(はり)がしっかりしたキレイな古民家です。

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出迎えてくれたのは、「梶賀 網元ノ家」を運営している中川美佳子さん(右)と浅田克哉さん(左)です。

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入口には、“あぶり”がディスプレーされています。

171123-0018ちなみに写真のあぶりは、向かって左の大きな800円のパックを除いて、ほとんどが500円。購入しやすい価格がうれしい。

この“あぶり”とは、いったい何なのか。中川さんに聞いても「あぶりは“あぶり”なんです」という答え。食べればわかるということでしょうか。

そこで購入したあぶりを、さっそく開封。いただいてみました。

試食
写真ではわかりにくいのですが、これはサバの稚魚(ちぎょ)で1匹の長さは8センチほど。パッケージを開けると、ほんのり燻製(くんせい)の香りが感じられます。

食べてみると想像よりふんわりとした食感で、でもギュッとうま味が詰まった、一夜干しや燻製のような感じです。思ったほど塩分も強くなく、食べやすい…というか、かなりおいしい! 凝縮されたうま味が、口の中でドンドン広がります。日本酒やお茶漬けによく合うタイプ。いくらでも食べることができます。

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“これはいける!”と、「梶賀 網元ノ家」の名物である釜飯を注文したところ、釜で炊くために約30分かかるとのこと。その間に、実際にあぶりを作っているところを見せていただけることになりました。

取材した11月下旬は、先ほど食べた小さなあぶりとは異なり、サバやブリといった大きな魚のあぶりを作っているそう。

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写真はサバ。開いて丁寧に内臓を取っていきます。

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漁港のそばには工房があり、これはあぶりを焼く窯(かま)です。モクモクと煙が上がっています。

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カバーを開けると、串に刺された魚の切り身が並んでいました。このときは、ブリがずらり。

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魚の表裏を丁寧に返し、火の通り具合を確認します。

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窯をよく見せてもらうと、薪(まき)がくべられています。バーベキューやグリル用と違い、火と魚の間に距離があるのが特徴。

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魚の火の通り具合に合わせて薪を調整しつつ、薪が燃えたら追加します。薪をくべて、魚の具合を見る作業を繰り返すこと約2時間。でもこれが、梶賀のあぶり作りの工程のほとんど。作り方は、なんともシンプル!

 

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釜飯が炊き上がったところで、再び店内へ。梶賀のあぶり釜飯セット1,000円。お茶碗や箸置きまで、ええ感じです。

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釜飯には、サバの骨からとったダシに、米、サバのあぶり、ニンジンやゴボウが入っています。上品な味わいのダシで炊き上げられているのは、三重県産のブランド米「結びの神」。米の粒が大きく、釜飯によく合っています。大きなサバのあぶりとの、バランスの良さが魅力です。

さて、魅力的な食材であることがわかった“梶賀のあぶり”。その正体について、人気の仕掛け人でもある中川さんと浅田さんに直撃しました。

—————改めて、“あぶり”とは何ですか?
中川さん「あぶりは“あぶり”なのですが(笑)。魚を薪であぶることで出来上がる“あぶり”は、焼き魚と燻製のいいところを併せ持った存在なんです」

浅田さん「ただ、地元の方にとっては、焼き魚でも燻製でも、干物でもなく“あぶり”なんですよ。梶賀では定置網漁を行っているためサバの稚魚が取れるのですが、鮮度落ちが早いため、売れるようなものではなかったんです。それを、もったいないからと、自宅用に作り始めたのが“あぶり”。10センチに満たない小魚を串に刺して、樫(かし)の薪の遠火であぶることで、水分が抜け、さらに煙で燻(いぶ)されることで日持ちもする。漁港ならではの保存食として、100年以上前から伝わり、今に受け継がれています」

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—————知る人ぞ知る地元の味。
中川さん「梶賀町では、たいていの家で作られる、スタンダードなものだったようです。それが20年ほど前に、漁港の伝統食を紹介するNHKの番組で紹介されたことから、地元以外でも知られるようになったそうです。
その後、地元の干物屋さんが作ったあぶりを、梶賀町の婦人会が物産販売イベントなどで販売していたところ、少しずつ注目を集め、その反響を受けて尾鷲市のバックアップがあり、今につながっています」

—————徐々に販売を拡大していったのですね。
中川さん「三重県内では知名度が上がったこともあり、ここ数年は、“この名物をもっと盛り上げたい”という機運が、高まっていたようです。地元の活性化の狙いもあって、総務省が始めた“地域おこし協力隊制度”を尾鷲市が利用し、私と浅田が採用されました。
役目はあぶりを地元の特産品として成長させること。私はもともと東京の企業に勤めていたのですが、中小企業診断士などの資格を持っていて、地方産業のコンサルティングなどをやってみたいと思っていたんです。そういう機会を探っているタイミングで、梶賀のあぶりに出会いました」

浅田さん「ボクは、大阪のデザイン会社で、パッケージのデザインなどを手がけていたのですが、何か次のステップをと考えていたときに、“地域おこし協力隊”で梶賀のあぶりを見つけました。それまでは、商品の一部分であるデザインしか担当してこなかったのですが、ここでは“梶賀のあぶり”というものの全体をデザインというか、プロデュースできることに魅力を感じました」

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—————なるほど。2人はミッションを持ってこちらに移住してきた、助っ人的な存在なんですね。
中川さん「“地域おこし協力隊制度”は、日本全国でやっていて募集もありますが、尾鷲市の募集はビジョンがはっきりしていたのが良かったですね。今は私が営業や経理を」

浅田さん「ボクが商品企画や商品管理などを担当しています」

—————そして、あぶりの成長に向けて、ガシガシと進んでいったのですね。
中川さん・浅田さん「いえいえ!」

浅田さん「あぶりがどのように作られるのか、一緒に作らせてもらうなど、商品のことを知るために、本当にイチから、地元の方に教えていただくことから始めました」

中川さん「まずは町の人たちに信頼されないといけないので、話を聞きにいったり、作業を手伝ったりしましたね。1年半を過ぎた今は、みなさん気軽に声をかけてくれます」

—————そこから、どんなことを?
浅田さん「ボクはパッケージデザインのほか、PR拠点である“梶賀 網元ノ家”をつくりました」

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浅田さん「“梶賀 網元ノ家”では、店内ディスプレーや看板ももちろんですが、メニューの開発も担当しています。大変でしたが全部できるので楽しいですね」

中川さん「私は、売り上げが伸びてきたこともあり、みなさんにきちんとした給料を出せるよう、あぶりの生産・販売の会社をつくり法人化しました。とはいえ、もうけるというより、あぶり作りで町のみなさんが楽しく働ける環境づくりをしています」

浅田さん「あとはやはり、商品のクオリティー。味やあぶり作りはボクが口出すところではないのですが、最初、1袋の内容量は“こんなにあっても困る”というくらいの量で(笑)、消費者のニーズに合ったサイズや価格にしました。あとは、シーズンによって漁獲量が変わるので、通年で商品がそろうよう、本来のサバの稚魚以外の魚のあぶりも、各家庭で食べるだけでなく、商品として作ってもらうように商品開発も企画しました」

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—————それで結果は?
中川さん「はい、順調です。昨年2016年の売り上げは、前年比の約2.5倍。今年2017年は、その約2倍で推移しています。生産量が限られているので、徐々に上がっていけばいいと考えています」

浅田さん「生産量を上げていく必要はありますが、作業されている方は、みなさんご高齢。そこで、手作りのままで、でも、なるべく作業効率が上がって楽しい作業場になるよう、窯の改造などいろいろ試しています」

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あぶりは、真空パックされた状態であれば、常温で3カ月は保存可能。酒のおつまみにも、ごはんのお供にもいける万能選手の“梶賀のあぶり”。価格もお手ごろで、ブレークしそうなポテンシャルをビンビン感じました!

* * * * *

取材を通じて、中川さんや浅田さんのように、これまでのキャリアを生かしつつ、自然などの環境に恵まれたエリアで働いて生活するのも魅力的に見えました。そういった働き方・暮らし方をサポートする取り組みも三重県では、行っているそうです。
たとえば、2018年2月24日(土)に東京で開催される「紀伊半島でみつけた、自分らしい仕事と働き方」。三重県、奈良県、和歌山県による紀伊半島移住プロモーションで、今回お話を聞いた浅田さんも登壇されるそうですよ。

★紀伊半島でみつけた、自分らしい仕事と働き方

紀伊半島で地域固有の魅力を生かして働いている方、仕事の場所を選ばないフリーランサーという働き方をしている方に、実際の生活を中心にトークショーを展開。雑誌「Discover Japan」編集長・高橋俊宏さんが、移住の魅力に迫ります。

【開催日時】2018年2月24日(土)17:00から(開場16:30)
【場所】SHIBUYA CAST. SPACE(東京都渋谷区渋谷1-23-21)
【参加費】1,000円(税込)。※先着50人
【プログラム】
・16:30 開場
・17:00~18:00 紀伊半島 移住者トークセッション
・18:00~19:00 懇親会(紀伊半島の食材をいかした軽食やドリンクを味わいながら、出演者や参加者が自由に交流できる懇親会を予定)
【登壇者】
・奈良県:森 幸太郎さん<地域おこし協力隊・家具職人>
・三重県:浅田 克哉さん<地域おこし協力隊・デザイナー>
・和歌山県:中島 英介さん<映像制作>
・ファシリテーター:「Discover Japan」編集長 高橋俊宏さん
申し込み、詳細はこちら「ACTION to Local 紀伊半島は、人生の遊び場だ」サイト
http://brand.asoview.com/kiihantou-immigration/talk-event/

 

今回、ライター高田が訪れたのはこちら
★梶賀 網元ノ家
住所:三重県尾鷲市梶賀町312-2/駐車場あり(要事前確認)
電話:090-7823-1789
営業時間:カフェは金・土曜11:00~16:00 (L.O.15:30)
※食事メニューは予約制、12席
訪問時はFacebookでの確認がおすすめ。
https://www.facebook.com/amimotonoie/
★梶賀のあぶりの購入
https://spike.cc/shop/kajika_amimoto_no_ie

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